Interviewer・Text / Momona Fukuda     
Photo / Kazeho Oshima



「100年後にアンティークになるものを作りたい」

POINT NO.39・杉村聡 × maison drama_ ・mai
コラボ企画『Neo Vintage Chair』対談




 

オリジナルヴィンテージ照明店POINT NO.39と、古着の買い付け・リペア・販売を行う
maison drama_がコラボレーションしたフォールディングチェアが
4月28日(日)より販売開始される。

今回はオーナーである2人が初対談。
コラボ商品についてや海外での買い付け、サステナブルなどについて語った。



 

「試行錯誤しながらの製作」
コラボチェアについて




ーーPOINT NO.39の杉村さんは、2010年より海外のヴィンテージ自転車、
2011年より家 具の買い付け・修理・販売を始め、
そして今はオリジナル照明をメインに西五反田と目黒に お店を構えられています。

maison drama_のmaiさんは、アパレル企業で10年以上デザイ ナーをされた後、
2020年より都立大学に店舗を構え、ヨーロッパを中心としたレディースの
古着買い付けや販売・リペアをされています。

今回コラボされるチェアは、杉村さんがフ レーム、maiさんが生地の提供をされています。
今回のコラボ商品について詳しく教えてください。


 
杉村 
「元々はうちの倉庫に椅子のフレームが眠っていたんです。
そのフレームは、イギリスで買い付けを行っている会社さんがいて、
その倉庫ごと自分が買い取ったんですけど、そ こに20年以上入れられていたもので、
見つけた当時は何枚か生地が付いてたんですけど ボロボロで…。

これはどうしようかなぁと思って一旦放置してたんですけど、頭の隅には置 いてたんですね。
それが今回ご縁あってmaiさんにお声掛けをし、蘇らせることが出来ました。

フレームはイギリス家具メーカーのザ・コンランショップの創業者テレス・コンランさんによって
設立された家具チェーンHABITAT(ハビタ)で作られたもので、
木材はチーク(古くか ら最高級木材として高級家具や内装材などに使用されているもの)が使われています。
年代は1990年〜2000年代のもので、比較的僕らが扱う商品の中では新し目なものになります。





mai
「フレームがイギリスのものというのを伺って、ちょうど私がその翌月頃からフランスへの
買い付けが決まっていたんですけど、私は古着の楽しみ方の1つとして色んな時代の色んな国を
ミックスして遊べるのが、現在の私たちの特権だと思っているので、
フレームはイ ギリスだけど、色んな国や年代がミックスされることによって
今らしい楽しみ方が出来れば いいなというのをコンセプトに生地を集めました。

今回使った生地は、アフリカの泥染めのものと、
インドの象徴的なカンタ(古布を重ね合わ せて縫い合わせたもの)という生地を使っています。
あとはフレンチリネンは19世紀〜20世 紀前半のアンティークのもので、
ボゴランと呼ばれる伝統的なアフリカの生地は、細長い手 織の生地をさらに手で繋ぎ合わせ、
ラグにするなどして今でも使われているのですが、
今回はその前の段階の細い帯状のものを未使用で見つけたのでそれを使っています。

結構癖のある柄ものが多いので、あまりこの生地だけが主張しすぎないように選びました。
杉村 さんとは元々面識はなく、知り合いを通じて今回お声掛けいただいたのですが、
私は自分 のお店に飾る照明を開業時にPOINT NO.39さんで購入していたので、
このお話をいただ いた時はビックリしました」






ーー今回製作するにあたり、こだわったポイントや苦労したところはどんなところですか?



杉村
「最初買い取った倉庫で今回使用したフレームを発見した時は、何だか分からないような感じで
積み上げられていて、ほぼ未使用の状態で説明書と一緒にビニール袋に入って いたんです。

でも木はカサカサになっていたし、椅子の脚に付いてるゴムも劣化していたので、
まずは綺麗に埃を取り除いて、表面には油を入れてあげることで生き返らせ、
フレーム が主張しすぎないように落ち着いた感じの油を入れました。

あとは座るとグラグラしてたり軋むものもあったので、緩いところは一度外し補修するなど、
そういったところを集中的にメンテナンスしました


mai
「1番苦労したのは強度ですね。私は服以外のものを作ることがなかったので、
どのくらいの強度があればいいのかが分からなくて。
ぶっちゃけ見た目だけだったら素敵な生地は 沢山あったんですけど、強度面で弱そうなものは使えないので、
比較的厚みがあって、尚 且つ補強して強度を上げられるかどうかと試行錯誤しながらの製作でしたね。

裏は強度を 上げるためにしっかりとした新品の帆布を使用して、ヴィンテージの生地の裏には
芯地という補強のための接着布を貼っているので三層構造になっています。
背面は見える部分にな るので、なるべく表で使用してるものを使いたいなと思って作りました。






「経年で出る“味”と“朽ちる”の違い」
  海外での買い付けとヴィンテージ




ーーお2人は海外から買い付けをされていますが、どんな視点で選びますか?

mai「この質問めちゃくちゃお客さんから言われる(笑)」

杉村「言われますよね(笑)」

mai
「でもいつも一言で答えるのが難しくて(笑)。
私はアパレルデザインをやっていた経験 が結構染み付いてるところがあるので、
生地の魅力やパターン(服の構成)、裏側の仕様と か細かいところにはなっちゃうんですけど。
この仕事を始めて4年ほど経った今になって思うことは、私は生地の材質や色の好みがはっきりしてるので、
“気持ちいい色”みたいな、そ のシーズンの気分の色を大事にしてますね」

杉村
「僕はどういうシーンに合わせるかや、自分のお店の色。
それはカラーの色ではなくて、雰囲気の色なんですけど、そういうものを選んだり、
あとは購入される方はどういう方で、お店をやられる方だったら何屋さんかなと。

パン屋さんだったらこういうものが合うかな と想像しながらずっと歩き回るんですね。
買い付けは僕は主にアメリカなんですけど、フリーマーケットに古着屋さんの方も沢山いらしていて
よく一緒になることがあって、その時に 買い付けの仕方を見てみると古着屋さんとは全く違うんですよ。

古着屋さんはじっくり破れてないかなとか綺麗かなと凄く時間をかけて見ていて、
1箇所に長時間いらっしゃるんですけど、僕はとりあえず視界に入るもの全部見ながら歩くんです。

何往復も何往復もぐるぐる 歩いて視界の隅で引っかかったらじっくり見て、
状態確認と金額交渉というようなやり方ですね」



ーーどのくらいの広さがあるんですか?



杉村
「今まで1番広いところだと3時間で1周できるくらい広いです。普段よく行く所は
日本か らの観光客の方も来ているアメフトのスタジアムで、
毎月一回マーケットが開催されてるんですけど、古着のコーナーとインテリアのコーナーに分かれていて、
インテリアのコーナー だけでも午前中に2週したら終わっちゃうくらいです」






ーーそんなに広いんですね!凄く面白そう。



杉村「とても面白いです」

mai
「面白いですよね。ヨーロッパにも大きいものから小さいものまであって、
とりあえずヨー ロッパ最大と言われるような場所は1日掛けて行くんですけど、
古着だけとか家具だけとい う所があまり無いので、本当に色んな所に行きますね。

フランスだと大きいマーケットは観光地化されていて、あまり私たちが買うようなものはないので、
本当に小さな所とか不定期でやっているような所に行きますね」



ーー物凄く行きたくなりました(笑)。
お2人ともヴィンテージのものを扱っていますが、
杉村 さんとmaiさんにとってヴィンテージとは何でしょうか?



杉村
「ヴィンテージの良さを考えた時に、経年で出てくる“味”と“朽ちる”にはどんな違いがあるんだろうって思ったんです。

“味”には元々の素材が良くて、使い手が大切に使って生まれ るものだけど、
“朽ちる”のは手を加えずに放置されてきたという“愛情のかけ方の違い”も あって。
でもやっぱり元々の素材の違いも大いにあると思っています。

それは“愛されるべき素材”かどうかじゃないかなと。そしてそこには作り手の熱量も宿ると思うので、
それを自 分たちは継承していかないといけないなと常に思ってます」

mai
「古着って確かに今後も限りなく生まれ続けていくものだと思うし、時間が経てば
それなりの価値が出てくると思うんですけど、2000代以降にファッション業界に出てきた大半を占めるものは、
どうしても100年は持たないだろうなって思っちゃうんですね。

ファッションが凄く盛んだった70年代、80年代くらいの服に潤沢にお金を掛けて作っていた時代。
そしてそ れを楽しんでいた時代の熱量があって、やっぱりベースの生地が全然違うし経年の仕方も 違う。

それは限りあるものだと思っているので残していきたいし、
これから新しくものを作る人たちには残していくという事がベースにあって欲しいなと思います」




 



「100年後にアンティークになるものを作りたい」
「自分らしいものを探す事が買い物であって欲しい」







ーー古いものをとても大事にされていて、それを今にどう活かすかという取り組みをされていますが、
昨今サステナブルと言われる事が多くなり、私としてはその言葉だけが先行しているように感じます。

お2人はサステナブルについてや、古いものを今に活かす事について、どんな風に考えていますか?


杉村
「きっかけは古いものが好きだったっていうのはあるんですけど、海外に行くようになって、
古いものに対する日本との価値観の違いを目の当たりにしていると、
なんとなく自分たちが新しい物を作り出して消費しているように感じて…。

確かに日本は島国だし小さいので、どんどん消費していかないと企業も育たないししょうがないんですけど、
ゴミとして捨てられた物がどうなっているんだろうと、そういう事まで知らないといけないじゃないですか。

なので結局自分は無駄に買わないとか、物を大切にしようというところに行き着くんですよね。
それはサステナブルという言葉が出る以前から意識的に植え付けられてる部分はありますね」

mai
「私も全部一緒です。アパレルを辞めようと思ったきっかけが、今杉村さんが仰ったような事で。
本当にいっぱい作って、表に出てる以上に沢山廃棄されてるものが山のようにあるのを見てしまうから、
そこを無視する事は出来ないなと思ったんです。

今はサステナブルという言葉が広まったお陰で、アパレル業界もだいぶ意識されるようにはなったんですけど、
私がいた5. 6年前は関わっていることが辛い感じで…。

そんな中でサステナブルという 言葉が1人歩きするようになって、古着を買う事がサステナブルというような
広告的な感じに言われるのも凄い嫌だなと思ったんです。古着も限りあるもので、
それがまた消費されていくのは嫌だったので、物凄く小さな活動ですけど、
せめて私の手元に来たものはお直しを してあげる事なら出来ると思って今の仕事を始めました。

でもそれも『サステナブルだから捨てないで!』みたいに押し付けたくはないんです。
自分が出来る事がお客さんにとって便利な事であって、
それが社会の負担にならない事が1番いいなと思ってやっています」






ーー今お2人から“消費”について出てきましたが、お店を経営する上で、消費についてはど う考えてますか?



杉村
「自分のお店は有難い事にリピーターのお客さんが多いんですよ。大体、新生活や環境が変わる時に
インテリアを買う事はあると思うんですけど、何年かしてまた同じお店で買 う事ってあんまり無いですよね。

でもうちは嬉しい事に、10年後とかになって照明を追加したいと言って戻ってきてくださる方がいて、
それって凄くいいなと思って。100年後にアン ティークになるものを作りたいという想いで照明を作り始めたので、
ちゃんとした素材や部品を選び、そして溶接をしてしまうとメンテナンスが出来なくなるので、
極力そういう部分を 無くして、でもデザインは二の次にはしないという考えでやっています。
そういった面で津熊 さんとは意見が合って、なんか業界は違うけど目指す方向は一緒かもなと思って」

mai
「難しいところですけど、全く消費もせずに何の負荷も与えずに生きていく事は無理な ので、
なるべくそれを軽減したいというところと、あとモノづくりをする事自体は否定をしたく ないんです。

クリエーションされている方は本当に尊敬してますし、だからこそちゃんとそういう事を考えながら作ってる
ブランドさんには残って欲しいです。私トレンドとかブームとか 大量生産とか、
一局集中する事が凄く怖いんですよね。私がやっているお店は万人受けするものではないので、
本当にみんなそれぞれが自分らしいものを探すという事が買い物で あって欲しいなと思ってます」

杉村「買わない事もサステナブルですよね」

mai
「そうですね。無駄に買わないとか、とりあえず何でもいいやという感覚で買わなくてい いんじゃないかと思うんですよね」

杉村
「長く使えるものとして認めていただいて買ってもらいたいですね。安かろう悪かろうと いう言葉があったと思うんですけど、それは一旦飲み込んで考えてもらいたいし、自分も考 えたいなって思いますね」

mai
「『何でこの値段なんだろう?』と考えるようになれば、少し変わってくるのかもしれない なと思います。
でもそれを強制したくはないんですけどね。難しいですよね」

 



「モノを見る目を養いたい」
「クラシックを大切にしつつ、時代の空気感を読み取っていく」







ーー今後の展望について教えてください。



杉村
「モノを見る目を養いたい。それは自分もそうだし、下の世代の人たちにもそうで、
そのためには色んな国に出たり、色んなものを見てもらいたいなと思います。
それには自分が まず色んなものを見て経験して先に立って行動していく。

それによって生まれたものがこのお店と会社で、それに賛同してくれた人が来てくれたり、
スタッフとして働きに来てくれると いう風に繋がっていけばいいなと思っています。

芯の部分にはモノを大切にするという事を 掲げているので、コラボ企画もこういう考えに賛同していただいた方と
今後も一緒に続けて いければいいなと思っています」





mai
「自分は細く長く続けていきたいと思ってるんですけど、多分それが1番難しいと思っていて。
そのためには時代の空気感を常に読み取って、自分を更新していかなきゃいけないなと思います。
クラシックなことを言ってるけど、時代感に取り残されないように感覚だけは 更新していきたいですね」






ーー最後にこの商品を手に取る方や、お店に来る方にメッセージをお願いします。



杉村
「僕らインテリアを扱う者の目線として、こういう可愛い生地を張り地にする事って強度 面で難しいんですよね。
でも今回maiさんが細部にもこだわって縫っているところを見るとさすがだなと思いますし、
インテリアショップとお洋服屋さんでしか作れなかったものだなと改めて思いますね。

僕は裂けてしまったところが縫ってあったり、木が折れたところを紐でぐるぐる巻きにして接着剤で
固定するみたいな補修の跡が大好物なんですけど、今回使ってるフレームは使えば使う程、
味が出る素材なのでそこは結構ポイントです」





mai
「うちのお客様はリメイクに親しみを持っている方が多くて、POINT NO.39さんもメンテナンスを
されているお店なので今回ご一緒出来て良かったですし、今後使っていく中で何 かあった時には
気軽に相談出来る所があるよ!と思っていただきたいです。

生地に関しては気分に応じて変えたりも出来るので、今後そういうことにも対応していきたいですし、
お直しの跡もデザインとして見えるようにリメイクにも対応していきたいなと思っています」


 



mai
アパレル企業で10年以上デザイナーを経験した後、2020年より東京・都立大学にてヨーロッパより
買い付けたレディースの古着の販売・リペアを行うmaison drama_をオープン。
これまで にも定期的に他ブランドとのコラボやポップアップを行っている。

web site
https://maisondrama.fashionstore.jp/


杉村聡
2010年より海外のヴィンテージ自転車の買い付け・修理・販売店としてPOINT NO.39を開業。
2011年より海外家具の販売を開始し、2013年より目黒通りに照明専門店POINT NO.38をオープン。
2023年より西五反田へと移転し、オリジナル照明を扱うフラッグシップストアとして営業している。

web site - コラボ企画サイト